ミッドナイト・スナック

現パロ。夜食と酔っぱらい

 カーペットを新調しようかどうか悩み、ウリエンジェは湯を沸かしていた。
 午前零時。ヤカンの蓋が震え、吹き出した水蒸気に火を止める。カップ麺へ湯を注ぐと、ウリエンジェの視線はリビングに向けられた。古びたカーペットの上、恋人が大の字になっている。ほとんど珍しいことなのだが、飲み会から帰宅したサンクレッドは酩酊しており、これも珍しく夜食をせがまれ、しかし自分の家事能力など程度が知れているため、こうしてインスタント食品に頼ったのだ。
 投げ出された脚を踏まないよう注意し、ウリエンジェがローテーブルへカップ麺を着地させる。隣にはプルトップが開いたままのビール缶が、儀式的に置かれていた。
「サンクレッド」
 脚の間に座り込んだウリエンジェが赤ら顔を叩けば、長めの前髪から覗く淡褐色の瞳。彼はこんな時でも寝覚めがいい。
「……うりえんじぇ」
「ほら。貴方が食べたいと言ったのでしょう」
 生返事をしたサンクレッドは起き上がろうと、薄い背中にしがみつく。日頃の運動不足が祟り、ふらついたウリエンジェだったが、何とかやり過ごし横抱きの状態を保つ。
「とうがらしは?」
 華奢な肩に顎をのせたサンクレッドが甘ったるい声を、アルコールの含んだ呼気と共に吐き出す。シーフード味にとうがらしをふりかけて食すのは、ウリエンジェの嗜好であったのを、味見と称して平らげた日からサンクレッドのお気に入りとなった。
「ここに」
「お前はエライなぁ」
 大きな掌に収まった小瓶を見て顔を綻ばせると、サンクレッドの手が鈍色の髪をかき乱す。少々痛いくらいだ。上機嫌は構わないが、無防備な姿を晒すのは良くない。酩酊する自分を介抱されるほうが、ずっといい。なんて勝手な。
「何だよ……ほら」
 黙り込むウリエンジェが手にした小瓶を奪い、弾力のある唇が触れる。いつもより高い温度。テーブルに物の置かれる音がして、その手が尖った耳を撫でてくる。下唇へ噛みつくサンクレッドが、口を開けろと言わんばかりに舐め上げるので、素直に従えば熱い舌が口内へと忍び込む。差し出したウリエンジェの舌先は吸われ、じゃれるように軽く歯を立てられた。
「……っ、ぁ、サンクレッド……ッ」
 腰へ巻きつく両足で引き寄せられ、半ば強引に押し倒す形となったウリエンジェの均衡が崩れる。なにか掴むものが欲しくて腕を伸ばすと、床に放置された袋の持ち手が引っかかり、中身が飛び出す。と、同時にべしゃりとウリエンジェの顔面がカーペットに突っ伏した。
「キスをする相手が間違ってるぞ」
「……申し訳……」
 強かに打った額をさすりながら上体を起こすウリエンジェは、恋人の頭上に散らばった物を見て、目を疑う。ペンギンの絵が印刷された黄色い袋の中から現れたのは、いわゆるアダルトグッズだった。
「サンクレッド、あの……」
「ん?……ああ、刺激的だろ」
 ウリエンジェの言わんとすることに気づいたサンクレッドがニヤリと笑い、適当な箱を取り上げてパッケージを確認する。
「これなんか、お前のサイズにピッタリだ」
 有名メーカーの男性器に装着する玩具を突きつけられ、ウリエンジェの片頬が引きつるのを尻目に、サンクレッドは胸板を押しのけて腹ばいになると、幾つもの商品を説明し始めた。ラブローションや、パステルカラーのディルド、それからコンドームも抜かりなく。エロガチャのボールを開ける頃には、ウリエンジェも疲れ果てていた。
「も、もう宜しいですか」
「よし。実践するか」
 言うが早いか、中身を取り出すサンクレッドを虚無の表情で見つめ、せめて準備をと伝えれば「さっき済ませた」と返答があり、頭を抱える。確かに長く個室に籠もっていた。やはり酒は恐ろしい。一体どんな表情で此等を購入したのだろう。
「夜食が台無しですね」
「お前を食うからいい」
 逆ではないのか。そう思いつつ、恋人に求められるのはやぶさかではなく、いっそ期待に満ちている。そんなウリエンジェを知ってか知らずか、サンクレッドが礼儀正しく「いただきます」と呟いて、薄い唇に食らいつく。それを受け止め、ウリエンジェはカーペットを新調すると決めた。