いま、ふたたびのコンビニへ

現パロ。スキンについて

 ゴムがない。
 ウリエンジェがそのことに気づいたのは、挿入の直前だった。サイドチェストの引き出しに残る空き箱を確認し、愕然とする。
 三日前の朝までは残っていた。あの日はサンクレッドに跨がられて──最後のひとつを開封したのだ。
 嗚呼、なんてこと。微睡みと快楽の狭間で精を放った己が恨めしい。然りとてゴムのない事実は、覆しようがなかった。
「……ウリエンジェ?」
 ベッドサイドで硬直する恋人に、サンクレッドから声が掛かる。背骨が浮かぶ平たい背中が、びくりと反応を示した。察しの良い彼は、それだけで理解が及ぶ。
「ゴムがない、か」
 全てを言い終わる前に、ウリエンジェはベッドから飛び退いた。散らばる服を拾い上げ、早口でまくし立てる。
「い、いえ。はい。私の配慮が足りず、貴方には申し開きのしようも……つきましては早急に膳立てを」
「おい、待て」
 再びサンクレッドは呼びかけた。が、袖を通したTシャツが後ろ前なのも構わず、下着を探し出すウリエンジェには届くべくもない。だいたい、彼の下着はシーツに寝そべっている。
「落ち着けって。その状態で外に出る気か?」
「あ……」
 ウリエンジェの下半身は臨戦態勢に入っていた。薄明かりの室内でも分かるほど耳を赤く染めると、顔を覆い隠して床へうずくまる。サンクレッドは聞こえない程度に溜め息を吐き、ベッドから離れた。
「大丈夫だから」
 長い手足を折り畳んだウリエンジェを、背後から抱きしめる。そのまま、ゆっくりと身体を左右に揺らして、サンクレッドは口を開いた。
「俺も忘れてた」
「いいえ、いいえ。閨で恥をかかせたのは私です」
 ウリエンジェの頑固さに内心、苦笑する。セックスはひとりでするものじゃない。悪戯に尖った耳を甘噛みしてやると、上擦った声が漏れ出た。彼は耳が弱い。
「じゃあ、俺に選ばせて」
 どっちみち、ゴムのない状況では繋がれないのだ。
 
 自宅から徒歩五分の場所に、コンビニはあった。陽が落ちた後も、アスファルトに溜まった熱が吐き出すように暑い。自然と動作も遅くなり、歩みもだらつく。
 夜が訪れて間もない店の前には、学生がたむろして居た。それで思い出す。最中にゴムがないと、外出したのは学生以来だ。
「気が緩んでるんだなぁ」
「何がです?」
 独り言を拾ったウリエンジェに「何でも」と答える。入店音と店員のやる気がない挨拶を聞き流してカゴを取ると、サンクレッドは右手に曲がった。
「朝のパンも買ってく」
「牛乳も切らしていました」
 明日は午前中に買い出しへ行く予定だったが、この後を考えると起きるのは無理だろう。サンクレッドは食パンと牛乳、ついでに卵をカゴへ放り込む。ふと陳列棚のカップ麺に目が留まり、腹の音が鳴った。
「腹が減ったな」
「まだ何もしていませんよ」
「でもイッたろ」
 言いつつ、カップ麺の醤油とシーフード味を入れる。こうなると腹を満たすものばかりを求めるもので、ふたりは片端から食料を投げ込んでいった。乾物、ビールのロング缶、自社ブランドのフルーツジュースに、少しお高めの焼き菓子なんかを。
 清算のためカウンターへカゴを置き、財布を取り出しながらサンクレッドは尋ねる。
「煙草は?」
 思い当たったウリエンジェは、銘柄の番号と個数を店員へ伝えた。どうせ吸うのに、カートン買いをしないことをいつも不思議に思う。
 
 ありがとうございましたー。変わらず気の抜けた店員の声を受けて店を出る。気温が高く、夜でも明るい街は蝉の鳴き声がまだ聞こえていた。
「贅沢をしてしまいましたね」
「たまには良いんじゃないか」
 コンビニは魔の巣口で全て定価のため、まとめ買いは結構な出費なのだ。「特別な夜」のお楽しみでもある。
「ところでウリエンジェ」
「はい?」
「ゴムは買ったか?」
 瞬間、ウリエンジェの顔が青ざめ、身体が綺麗に半回転する。「迅速に購入して参ります」言ったが最後、小走りでコンビニへ戻っていった。取り残されたサンクレッドは顔を綻ばせ、今度こそ独り言を呟く。
「お前も気が緩むなら、嬉しいよ」
 薄っぺらな背中を眺め、業務用コンドームの通販を検討するのだった。