フロム・ビハインド

結腸責めが書きたかった

 常より主導権はサンクレッドにある。
 癒し手を担う者にとって、盾役である彼の指示は絶対だ。彼が右を向けと言えば右を向くし、待てと言えばいつまでも待つだろう。
 長年の付き合いで移り変わったものと、変わりのないもの。ウリエンジェに纏わりつく目に映らない手綱は、サンクレッドが握っている。
 それは性行為でも同様だ。手渡された主導権は其の実サンクレッドの手中にあり、請われるままにウリエンジェは応じた。施される愛撫で甘い悲鳴をあげる彼に、溺れるのが好きだった。例えそれが多少乱暴な行為であっても。

「……ッは……あぁっ、あ……」
 ぐちゅ、ずちゅ。粘膜が擦れ合う音が寝台に響く。一定の間隔で腰を打ち付けながらウリエンジェはサンクレッドの背中を眺めていた。内側を犯す度に汗ばんだ背中が隆起する。
「っあーー、あァ……欲し……」
 しばらくぶりの後背位にサンクレッドは感じているようだった。この体勢の大抵が「乱暴な」性行為であったのを思い出す。血管の浮き出る首筋を締め上げたのも、一度や二度では無い。自己肯定感の低い当時のサンクレッドは、それを悦んだ。ウリエンジェもまた、嗜虐心を奥底に秘めている。
 紅色に染まる項へ嚙りつきたい衝動を抑え、ねっとりと舌で舐め上げる。
「んぁあ……っ」
 背を仰け反らせたサンクレッドが上向いた拍子に、ウリエンジェは唇を奪う。舌先で口腔低を刺激すると絡めた舌が僅かに痙攣した。飲みこみきれない唾液が白い喉を伝っていく。
「なぁ……もっと……」
 キスを味わうと、サンクレッドは自ら雄を咥え込む場所へ手を伸ばし拡げてみせた。体液で潤んだそこは、ウリエンジェを求め引き攣っている。
「もっと奥を……?」
 添えられたサンクレッドの手を重ね合わせシーツの上へ導く。ウリエンジェは覆い被さると、ごくゆっくりとした動作で奥へと潜り込んだ。一応の行き止まりまで辿り着くと、切先で柔らかな扉を叩いてやる。
「ぁっ、ア、あ!そこ、そこ開いてくれ……!」
「其れは些か……」
 欲を逃そうとウリエンジェは長い息を吐き出す。悪い「お誘い」に平静を装うようにも見えた。扉の向こうには強烈な快楽が待ち構えている。が、
「貴方が意識を失い取り残されるのは御免ですよ」
 サンクレッドの身体は自在に意識を遮断する事が出来た。それは身体が限界を認識しても同じで、強すぎる快楽は意識を途切れさせるのだった。
「やだぁ……なあ、頼むから……」
 発情期の猫さながらに腰を擦り付けるサンクレッドに再び息を吐く。ウリエンジェに抗う術は無かった。手綱は彼が握っているのだから。
「……身体の力を抜いて下さい」
 聞き届けられ、肩越しに淡褐色の双眸が細められる。サンクレッドはぺたりと上体を俯せ、腰を高く上げた。
 一旦、身を離したウリエンジェが下腹に触れる。十分に温まった部位を摩れば、鼻にかかった声をサンクレッドは漏らした。両手で腰を掴み慎重に楔を埋めていく。
「う、ぁああぁあ……っ!」
 ぐぷん。と音が立ち、自身が迎え入れられたのだと分かる。外側から触れた下腹と等しく、温かな場所。
「ん……サンクレッド……全て、入りましたね……?」
「ぁ、ア、入って……はいってる……ああぁ……」
 シーツを手繰り寄せ、サンクレッドは浅い呼吸を繰り返す。支える腰が数回、跳ねた。
「動き、ます」
「あっ、待って」
 この状況での待ては良し、と判断し雄を引き抜く。腰を回し軽く揺さぶってから、再び奥へと突き入れる。切なげに絡みつく内壁が堪らなかった。
「んぁあああぁ!ぅあ、アっ」
 肚の中を引き摺って押し込む度に震える背をあやして撫で上げる。そのまま胸を伝い、立ち上がる突起を爪先で引っ掻いた。蠢く内奥を愉しみながら指先で捏ねてやる。
「ん゛ンーーーッ」
 とうとう耐えきれずにサンクレッドは己の手へと歯を立てた。意識を保つための本能的自衛だろう。ウリエンジェは動きを止め、サンクレッドの口から手を離させる。
「ほら、ちゃんと息をして」
「……ぁ、ふァ、あ……」
 ぜいぜいと呼吸を整えるサンクレッドは、身動ぐだけでも感じるのかシーツを硬く握り締めていた。顔を押しつける枕が涙と唾液で湿っている。
「お聞かせ下さい。貴方の声を」
 耳朶に唇を触れさせ言葉を注ぎ込むと、ウリエンジェは白い両腕を奪う。肘裏を掴み背中側に固定する。
「やっ……ウリえ……」
 涙でこぼれ落ちそうな瞳の奥に、確かな期待を汲み取って両腕を引き寄せた。ほとんど悲鳴に近い声をあげ、サンクレッドの身体が撓る。体液で滑りの良くなった肉壁をぐぽぐぽと突き上げて先端を奥へ含ませる。
「あ!あっ、ァ!やだ、ウリエンジェ、も、それやめて……っ」
 腰を引かぬまま粘膜を刺激すると柔らかなその場所が、待っていたとばかりに吸いつく。寝台のシーツは茎から溢れる透明な液で、ぐっしょりと濡れていた。拒絶の言葉と素直な身体の反応に、愛おしさが込み上げる。
「酷くされたかったのでしょう?」
 うんと甘い声で囁けば裡がきゅうっと締め付けた。陸に上がった魚と同様に、はくはくと酸素を吐き出すサンクレッドが舌ったらずに強請る。
 酷くして。
 ウリエンジェの唇が三日月を描いた。
「……ゃ、ぁああああぁっ」
 雄を入口まで引き抜いて一気に奥を抉る。サンクレッドは内壁を引っ張られる感触により感じるため、意図的にウリエンジェは緩慢に動く。後孔の淵を雁首で拡げると白銀の髪が左右に揺れた。
「やぁ、抜くなぁ……ぁあン」
 自由にならない両腕を突っ張らせて、腰を振りウリエンジェを誘う。手綱は完全に手放されていた。誘われるままにサンクレッドの弱い部分を擦り、切先を押入れ、奥を穿つ。
「き、もちい、気持ちいい、あッ、ウリエンジェ、うりぇんじぇ……‼︎」
 拘束した手が握り締められる。項から背中にかけて紅色に染まる裸体が欲情を煽り、ウリエンジェを溺れさせていく。解けた手綱と、彼を手中に収めた充足感が悦楽を増幅させていた。
「あ、ぁ、あ」
 サンクレッドの身体が不安定に震え出し限界を訴える。ウリエンジェは腕の拘束を解くと上半身を抱きかかえ、開ききった奥へと腰を沈めた。繊細なその場所に繰り返し口付けると、柔らかな抱擁が返される。
「ぁうぅぅぅっ、あ゛、ぐっ、ーーーッ‼︎」
「サンクレッド……!」
 湿り気を帯びた項への噛み付きに、殊更大きくサンクレッドの身体が跳ねて白濁を撒き散らす。奥へと搾り取られウリエンジェも精を果てさせた。
 かくり。弛緩した裸身がもたれ掛かり、サンクレッドが意識を手放したのだと気付く。愛液で濡れる艶かしい姿を横たえると揺り動かし、残滓を吐き出した。
「……あぁ……ぁ」
 意識のないサンクレッドの手が何かを探すように彷徨う。ウリエンジェはその手を掬い取り、そっと口付けた。
「愛しております。サンクレッド」
 私の手綱は貴方だけに。