ワンドロお題『男前なサンクレッド』
五日ぶりの宿だった。
質素だが清潔な部屋に、行き届いた主人の応接。酒場が併設されているため、空腹に悩まされることもない。
サンクレッドは愛機を立てかけると、数日の野宿で黄色味を帯びたコートを脱ぐ。元より軽装のウリエンジェは、本棚を興味深く眺めていた。
「久々の宿で徹夜か?」
「性分でして」
サンクレッドの問いかけに彼が答える。薄明かりに照らされた目元に浮かぶ隈は、睡眠不足を示していた。
「今夜は寝る」
言ったそばからサンクレッドは服を脱ぎ、寝衣を纒う。それから「ほら」とウリエンジェにも着替えを渡し、自分は横たわってしまった。
取り残されたウリエンジェは、ゆったりした動作で就寝の準備を始める。彼には彼の「支度」があるようで、サンクレッドはそれを眺めるのが好きだった。長い腕が生成色に袖を通す仕草や、装飾の外された黒服が畳まれるのを。
髪を手ぐしで整えたウリエンジェは寝台に足を向ける。サンクレッドの左隣に設えられた場へ寝そべるはずの体躯は、柔らかな声音に引き留められた。
「そこに居なくていい」
旅に出てからというもの、ふたりは寝床を別にしていた。遠慮がちに薄い唇が開く。
「ですが」
「俺がいいと言ってるんだ」
幾度となく抱き合ってきたが、寄り添うだけの理由は必要なのか。自らが刷り込ませたなら、とんだ躾だ。
「おいで」
身を起こし、両腕を広げる。褐色の素足は少し躊躇ったあと、サンクレッドへ近づいた。寝台で膝立ちになったウリエンジェは影のように長く、暗い。広げた腕を背中へまわし、自分だけの夜を抱きしめる。
「サンクレッド」
「うん?」
ふたり分の体重がシーツに沈みこみ、寝台が音を立てた。交わる時より、ずっと穏やかに。
「……おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
腕枕をされたウリエンジェは、そのまま金目を閉じる。
喉につかえる言葉を、サンクレッドが聞くことは無かった。従順なほど甘え上手な彼を羨ましくも思う。が、可愛いと甘やかしているのも自分だった。
「ままならないなぁ」
呟いて、サンクレッドは鈍色の髪に手を伸ばす。