ワンドロお題『海』
アンカーヤードから一望する海は絶景だった。西に沈む太陽が、休息をとる船を照らし出している。街の中心より離れているせいか、その場はウリエンジェとサンクレッドのふたりきりだ。
鳥と船が模られた噴水がリムサ・ロミンサを見守るように佇む。潮風がまとわりつくのを不快だと感じながら、サンクレッドの表情を窺うと、静かに遠くを眺めていた。
「怖くはないか?」
そう尋ねられ、ウリエンジェは「少し」と曖昧な返事をする。海都時代を知るサンクレッドにとって、此処は敬遠する場だ。連れ出された真意を測りかねている。
所々が欠けた石畳に、白銀の髪と白いコートはよく馴染んでいた。視線がぶつかれば、目元が細められる。
「この景色を見せたかった」
笑った拍子にサンクレッドの輪郭がぼやける。途端、ウリエンジェは焦燥にかられた。虚飾に満ちた以前の彼とは違う。それでも。
「……何」
気がつくと両腕でサンクレッドを抱き寄せていた。埋めた首筋から、僅かに潮の香りが漂う。
「……貴方が泣いているのかと」
「お前のほうが余程、泣きそうだが?」
サンクレッドは柔らかな髪に指を差し込むと、後頭部を軽く撫でた。衣服越しに体温と鼓動が伝わってくる。
「本当に隠すのが上手くていらっしゃる」
それを咎めようとは思わない。過去から現在に至るまでの過程が、腕に収めたサンクレッドを形成している。彼の孤独は彼のものだ。
「ウリエンジェ。お前は鋭いよ」
サンクレッドは素早く唇を奪うと口内に割り入り、ウリエンジェの舌先へと触れる。かと思えば、するりと抜け出て口づけを終わらせた。
「そんなこともあった」
揺れる淡褐色にウリエンジェは慣れない。サンクレッドはいつだって、笑顔で泣いていた。そうした彼に寄り添うと決めたのも、己なのだ。