まどろむ

ワンドロお題『安らぎ』

「床に就かれますか」
 生あくびを噛み殺すサンクレッドを見て、ウリエンジェは本を捲る手を止めた。
「ん……お前は?」
 のっそりと椅子から立ち上がったサンクレッドは、半歩分の距離しか無いベッドに足を向けて問う。僅かな明かりに照らされる鈍色の睫毛が名残り惜し気に揺れた。
「私はまだ作業がありますので」
 残念です。と笑う唇に触れるだけの口付けを落として、耳の後ろを撫でてやる。
「おやすみ、ウリエンジェ」
「はい。また明日」
 長い両腕が抱擁を返す。褐色の首筋に後頭部を擦り付け、サンクレッドは糊の利いたシーツへ横たわった。上掛けを被ればふんわりウリエンジェの匂いを運んでくる。
 当人は卓上でインクに浸かる羽根ペンを手に取るところだった。中指が二度、机を叩く。それはウリエンジェが思案する時の癖だとサンクレッドは知っていた。
 筆先が羊皮紙に載せられたのを合図に瞼を閉じる。紙の上を走る筆の音が、耳に心地よい。
 ひとりで眠るのも人が傍に居るのも苦手だった。今こうしてサンクレッドが微睡むのは、ウリエンジェに安らぎを感じるのに他ならない。
 サンクレッドはそろりとベッドから手を伸ばし、黒い服の裾を摘んだ。