りんご

ワンドロお題『看病』

ウリエンジェが林檎を好まないことを、この時はじめて知った。
 篤学者の荘園にはそこかしこに転がっていたし、幼少期の彼は食後たびたび口にしていた。栄養価の高さで食されていた林檎はいま、寝台の隣に放置されている。
 慣れない旅路で発熱したウリエンジェは寝息を静かに立てていた。額へ当てたサンクレッドの掌には体温の高さが伝わってくる。
 暖かな寝床を用意し薬を飲ませた病人が寝てしまうと、手持ち無沙汰で器のすり下ろした林檎をスプーンで掬いとり口へと運ぶ。蜜がふんだんに含まれたそれは甘かった。
 食欲がない。林檎は欲しくないとむずかるウリエンジェを、宥めて寝かしつけた自分も甘い。自覚はある。思えば、ずっと大事にしていたのだ。気付くのが遅かっただけで。
 サンクレッドはおもむろに立ち上がり寝台へ忍び込む。反射的にウリエンジェは寝返りを打ち、背を向ける形となった。腹側へと腕を回して優しく抱きしめる。
 
 昔、サリャクの海に落ちたウリエンジェを助けたことがある。
 あの時は二人共ずぶ濡れで、カナヅチの彼に至っては気を失っていた。医療室で目を覚ますと思いのほか身体が冷えており、やはり今日のように寝床へ潜り込んだのだった。低体温の小さな背中は、サンクレッドにすっぽりと収まった。
 いまのウリエンジェの背中は広く、汗ばんでいる。けれど控え目に体躯を丸ませる仕草は、ちっとも変わっていない。サンクレッドは首を伸ばして肩口に顎を乗せると囁いた。
「早くよくなってくれよ?大先生」