カベノハナ

ワンドロお題『甘えるウリエンジェ』

襟足から覗く白いうなじを見つめて、ウリエンジェはその声を聞いていた。
 サンクレッドの声色は大きくも小さくもなく、歌う調子で話をする。合いの手をうつように返答がされ、鈴の笑い声が響く。
 彼の話術を目の当たりにするのは幾度とあったが、その都度ウリエンジェは感嘆し、恥じいる。とても自分には出来ぬ芸当で、威圧感を与えない程度に控えるのが定石だった。
 情報収集の基本は会話だとサンクレッドから教えを受けたものの、変わらずウリエンジェは他人との意思疎通が不得手だ。いっそ、書面での遣り取りならば気安い。
 
 人好きのする笑顔でサンクレッドがひらりと手を振ると相手は去って行った。振り返る淡褐色の瞳がウリエンジェを捉える。
「お前はどう思う?」
 問われて、見解を述べれば彼も頷いた。
「同意見だ。次はそこへ向かうとするか」
 と、先へ進むと思われた黒革のブーツは動かず、サンクレッドは腕を組みウリエンジェに対して言った。
「次はお前に任せるかな」
「ご冗談を」
 首を横に振るウリエンジェへ肩を竦めて、太い眉が八の字を描く。彼が言い含める時の表情だ。リーンにすら見せた記憶はない。
「いつまで経っても変わらないぞ」
「苦手を克服する必要がありましょうか」
 貴方は私の手足でしょう?
 次いで出た言葉に酷い甘えだと感じる。けれど現在のウリエンジェには自信があった。彼がどこまでも自分を甘やかす事に。
 ぽかんと開かれた厚い唇が閉じられて口角が上がるのと同時に、白い睫毛から覗く目が眇められる。
「とんだ我儘だな」
「ええ。貴方も座学はお嫌いでしたね」
「まったくだ」
 屈託なく笑ってサンクレッドは歩き出す。歩調を合わせて続くウリエンジェに、拾える程度の声音で彼は呟いた。
 内容は叩きこんでおけよ、俺の頭。