ライスプティング

ワンドロお題『おやつ』

休憩に立ち寄ったラザハンの茶店で「サービス」として提供されたのはミルクを砂糖で煮詰めた粥だった。
 フルメンティを彷彿とさせる料理を目の当たりにし、サンクレッドは顔を顰める。冷えた粥にはナッツとドライフルーツが加えられ、香辛料の香りが漂う。
 驚くべきはウリエンジェが美味そうに粥を食べている事だ。それは米で、主食だぞ?
 以前、激辛料理を顔色ひとつ変えずに完食したのを思い出し、彼の味覚を疑う。
 注視されていると気付いたウリエンジェが「美味しいですよ」と簡潔に感想を述べた。嘘に決まっている。
 スプーンを持つ褐色の指先がたっぷりとミルク粥を掬い、サンクレッドの口元へ差し出された。
「俺はいい」
「食べず嫌いを咎めるのはいつも貴方でしたね?」
 強い日差しに照らされたウリエンジェの微笑み。促す声は目の前のそれより、ずっと甘かった。
 観念して口を開けば、舌へあたる粥の感触と鼻に抜ける香辛料とミルクの匂い。サンクレッドは咀嚼をせず、ほとんど勢いでそれを飲み込んだ。
「……うっ」
 手元のアイスティーを一息に飲み干す。主食が甘い。サンクレッドの脳と身体は、ミルク粥に対して拒絶反応を起こしていた。
 頭上から抑えた笑い声が届いて相手を睨みつける。
「笑ってくれるなよ」
「失礼。貴方にも不得手はあるのですね」
 当たり前だ。誰にでも得手不得手はある。隠す必要に迫られただけで、この国の気候も暑さに耐性の無いサンクレッドには体力を消耗するものだった。ウルダハの人間が聞けば、呆れるだろう。
 
 ウリエンジェは円形のテーブルに備え付けられた灰皿を手繰り寄せると、露店で入手した煙草に火を付けた。紫煙にのせてバニラの香りが周囲を包む。
 ラザハンという国は不思議なもので、気候や文化がウルダハと似て非なるものだった。そこかしこに咲く花々と建物は極彩色で、食文化は酸味や辛味、甘味がとても強かった。ウルダハの交易で需要があったのも頷ける。
「暑いですねぇ」
 精密な細工の施されたグラスに入った氷が音を立てると、独り言のようにウリエンジェが呟く。
 宇宙の最果て、鏡像世界を渡っても、世の中は未知で溢れていた。甘いミルク粥を知らない程度には。世界は好きと嫌い。そうで無いもので、構成されているのかも知れない。
 少しの暑さも感じさせないウリエンジェの首筋に一筋の汗が伝う。その喉元に噛みつきたい衝動に駆られるのもまた、サンクレッドは知らなかった。