ヴァレンティオン・キッス 

ワンドロお題『ヴァレンティオンデー』

ウリエンジェは菓子箱が好きだ。
 絵本から飛び出したような柄や、洒落た箔の押される装飾は、飽くことなく眺められる。白銀のリボンを巻かれた箱を手にし、サンクレッドへと声を掛けた。
「差し上げます」
 突き出された薔薇色の菓子箱を前に、ふくよかな唇を半開きにする彼は、己の行いを心底意外に思っているのだろう。たっぷりと間を開けた後に「ああ。ありがとう」と、ようやく絞り出し、その長方形を受け取った。
「召し上がって」
 ウリエンジェが促せば、白魚の指先が白銀を解く。薔薇色の箱を開けると、カカオがふんだんに使用されたチョコレートが鎮座していた。細い枝に似た菓子は、味わわれるのを今かと待ち構える。
「……地味だな」
「そう仰らずに」
 枝を摘んで口へ放り込むと数回の咀嚼音が響き、喉が隆起するのが見えた。ウリエンジェは眉を下げる。嗜好品なのだから、もっと楽しめば良いのに。
「美味いよ」
「左様で」
 名店ビスマルクのチョコレートは人気が高く、これでも入手には苦労したのだが。女性に気配りを欠かさなかった彼を思い出して笑う。「無かったこと」なのかも知れない。
「あわせて蒸留酒は如何です?」
 卓上に置かれた古いラベルの瓶を指差す。
「用意周到なことで」
 サンクレッドは瓶を手に取り蓋を開けると、ふたつのストレートグラスに琥珀色を注ぎ込んだ。中身を口に含ませ、再び枝へと手を伸ばす。
「お気に召したようですね」
「甘すぎなくて良い。中身はオレンジだな」
「ええ」
 ウリエンジェ自身もグラスに手を伸ばし、盃を傾ける。乾燥されたオレンジをコーティングしたチョコレートは、程よい甘さを伴う絶品なのだ。海都出身のサンクレッドに馴染み深い、ラノシアオレンジが使用されているのも気に入っている。
「お前は貰わなかったのか?」
 揶揄う口調で尋ねるサンクレッドに、母国の海を思い出させる青さの菓子箱を見せつけた。
「アリゼー様から頂戴しました」
「ほんとうに仲が良いな」
 三倍返しが恐ろしいのですけど。そう付け加えると、サンクレッドは淡褐色の目を細める。目尻にうっすら浮かぶ皺を、ウリエンジェは愛らしいと感じた。
「悪いな。俺にはやるものがなくて」
「いいえ?戴きますよ」
 謎解きを出された表情のサンクレッドに、褐色の指先が枝を摘みとる。思い至った彼はニヤリと笑い、器用に唇だけでチョコレートを奪った。
「ん」
 伏せられた白銀の睫毛とふくよかな唇に添えられた枝が、卓上越しに差し出される。やや前のめりになったサンクレッドの肢体。ウリエンジェは、ひっそり笑うと淡い唇を寄せた。
「御名答」