一陽来復
夜が最も長い日だと言う。
黄色い果実の浮かぶ様を眺めつつ、サンクレッドは湯に浸かっていた。柚子と名付けられた球体は、柑橘の匂いを漂わせ、楽しげに泳いでいる。
「肌に刺激を与えるので、上がり湯をするのが良いでしょう」
湯浴みを済ませたウリエンジェが言っていた。なるほど、確かにピリピリとした感覚がある。助言通り、上がり湯をするとサンクレッドは浴場を後にした。
「お戻りなさいませ」
部屋へ戻ると円窓に腰掛けたウリエンジェが、ゆるりと盃を傾けている。半分、開け放たれた障子から流れる外気は、囲炉裏で暖まった空間に冬を運んだ。浴衣に襟巻きを身につける、ウリエンジェの姿も酔狂だ。
「はじめてたか?」
「はい。お待ちしておりました」
サンクレッドも円窓へ近寄り、畳の上に胡座をかく。盆に載せられた銚子を掴むと、手酌で盃を満たした。互いに手を掲げ、乾杯の形をとると中身を飲み干す。火照る身体に、ぬる燗が程よい。
「アテに南瓜は甘いな」
小鉢に盛られた橙色は、冬に栄養を摂取する貴重な野菜だと、仲居が言っていた。
「大変美味と伝えたところ、箸休めにと持って来て下さいまして」
「お前は構わないだろうさ」
サンクレッドは漬物をつまむと口に放り込む。味のしみた大根がぽりぽりと音を立てた。
「美味い」
「ようございました」
金目が綻んで甘さを湛える。痩身は雅やかに寛いで、微笑みを浮かべた。ウリエンジェが夜を纏っていく。
「……爪痕に湯は沁みましたか?」
「誰のせいだと」
「私、ですね」
背中の痕跡は沁みるこそしなかったが、湯屋の客達から視線を集めた。お国柄、揶揄することがない分タチが悪い。
「貴方に触れるのを待ちきれない」
ひんやりとした手の甲が頬にあたり、心地よさに目を閉じる。ついで、指先が唇を撫ぜた。ウリエンジェは手順を踏む男だ。一拍のあと彼の薄いソレが重なるだろう。
「焦るなよ」
酒精で赤く滲んだ口元を躱し、サンクレッドが笑う。
「夜は長いんだ」
冗談めかして鈍色の髪を掻き回すと、ウリエンジェも笑った。
「そうですね。楽しみましょう」
「話を聞かせてくれ」
底の乾いたふたつの盃に酒を継ぎ足して、通りのいい声で強請る。思案したウリエンジェが顎を撫でる仕草は、東方で見た書生によく似ていた。
「井戸から聞こえた、声の話はどうです?」
長い話になりそうだ。月の浮かんだ盃の表面を味わうと、サンクレッドは耳をそば立てた。