ワンドロお題『可愛いウリエンジェ』
肩を並べる人物が不在なことはウリエンジェに奇妙さをもたらした。
街の喧騒は常より耳へ届き、多くの人が行き交う道を上手く歩けない。隣にあるべき彼の場所が、ぽっかりと空いて思わず腕をさすり上げた。
別れの前に東方へ足を運ぶと告げたサンクレッドが、何処を彷徨っているかは知らない。便りがないのは良い便り。とは、よく言ったものだ。
そうして気付く。彼が諜報──ようは仕事として──東方へ向かった訳では無いと。つまり、自分は待つ必要も無く、連絡も可能なのだ。これはウリエンジェにとって驚きだった。
砂の家でサンクレッドを待ち続け、必要最低限の情報を交わしたあの頃とは違う。今この時に彼の声が聞けると思うと、ウリエンジェの心は弾んだ。
褐色の手をリンクパールへ伸ばし……その手を下ろす。この退屈と安寧を、もう少しだけ味わいたかった。
ウリエンジェは帳面を取り出すとバツ印を書き込み、破いた用紙へ言葉を紡ぎ出す。エーテルの注ぎ込まれたそれは一羽の鳥に変化した。
「サンクレッドの元へ」
愛おしい人の名を呼べば、鳥は心得たとばかりにウリエンジェの身体を旋回し飛び立って行く。
サンクレッドが同じ思いを抱いているかは分からないが、我慢くらべなら自分に分がある。「おあずけ」には慣れていた。
おおきく描いたバツ印を受け取った彼が、どんな表情をするのか楽しみだ。