ワンドロお題『秋』
襟足をさらう風が心地いい。日中はまだ気温も高いが湿度は低くなり、陽が落ちるのも早くなった。秋の訪れを感じてサンクレッドは胸を撫で下ろす。暑さで疲労を蓄えた身体が、ぐっと楽になる季節だ。
「これは……圧巻の光景ですね」
感嘆の声をあげるウリエンジェにつられて、視線を向ける。眼前には赤い花々が所狭しと群生していた。花茎が伸びた先に反り返る花は珍しく、ひんがし独特のものだった。
「まるで彼の世に来たみたいだな」
鮮やかな血にも似た花びらに、思わず口をついて出る。そんなサンクレッドへ目を細め、ウリエンジェは長い指先をぱちぱちと叩いて見せた。
「ご明察です」
穏やかな低音が鼓膜を揺らす。ウリエンジェは花の名を口にすると、彼の世と此の世を繋ぐものだと簡潔に説明をした。また、今時分は墓参りをするらしく、死者に花を手向けるのは何処の国も同じと思う。
「なら、此の世で花を咲かせている間、彼の世では葉の姿になっていると?」
「はい。生者と死者がそれぞれに、同じ花を眺めているのは興味深い」
「お前らしい」
発言に対し意外にも信仰心のないウリエンジェが死を語るのは、いつも現実味を帯びていた。だから傍に置いている。死は決して悪いものではない。終わりでしか得られない安寧もある。
「俺が死んでも花はいらないよ」
生きた証を遺す気はなかった。この花が生と死を繋ぐのなら、尚更だ。
ウリエンジェは金目を瞬かせると、生白い手を掴む。そうして恭しく爪先へ唇を押し当てた。鈍色の睫毛から覗く眼差しが射抜いてサンクレッドを離さない。
「貴方が望むなら、此処で別れを演じましょう」
「それもいいな」
ウリエンジェなら、どんな望みも聞き届ける。行き止まりに辿り着いた二人には、お互いしか遺らなかった。
「お前が死んだら、どんな花が咲くだろう」
足元の赤を見下ろして独りごちる。知識がふんだんに詰まったウリエンジェからは、色とりどりの花が咲き乱れるだろう。
「貴方はとうに、星海へ還られてますよ」
私の花を確かめる術はございません。見送る側の覚悟を告げるウリエンジェに、サンクレッドは頭を振る。
「いや」
長身の肩越しに太陽が傾くのが見えた。夜が訪れる前に言の葉を伝えたい。暗がりは隠すのが得意だから。
「傍にいるよ」
お前の幕が下りる時、俺が隣に立たない筈はない。