読書と魚籠

ワンドロお題『大先生の弱点』

 てらてらと光が反射する頁を捲ったところで、ウリエンジェは諦めて本を閉じた。親指と人差し指を目頭に当て瞬きをする。目を酷使したせいで瞼の裏には黒点が数カ所あらわれていた。
 ウリエンジェは強すぎる光が苦手だ。
 だと言うのに、第一世界には溢れんばかりの光が差している。占星術へ手を出した際に覚悟はしたつもりだったが、こうも明るいとゴーグルが恋しい。
 手を額にかざして前方を見遣れば白い姿を捕らえた。エレゼンは本来、遠目のきく種族だが目の弱いウリエンジェにとって、役立つものでは無かった。それでも眼鏡の焦点を合わすように、暫く待てば視界がハッキリとしてくる。
 篤学者の荘園に足を向ける人間はそう居ないため確認するまでも無く、それはサンクレッドだった。背に釣竿、左手に魚籠を携えている。あちらも気づいたようで、片手を上げて見せた。ウリエンジェは席を立ち彼の元へと向かう。
「今宵の食は手に入りましたか?」
 顔を見るなり投げられた言葉へ、サンクレッドは苦笑して魚籠を差し出す。水の中で魚が数匹泳いでいた。

「お前は何をしていたんだ?」
 荘園までの道を連れ立ってサンクレッドは問う。
「私は洗濯物が乾くまで読書をしようと」
「呑気なやつだなぁ」
 からからと笑うサンクレッドに合わせて魚籠が揺れる(魚はウリエンジェの希望でトマトスープの煮込みになった)
「ええ。本当に」
 無の大地を調査する傍ら、妖精郷の生活は長閑だった。人ならざる者達に囲まれ、自分達の営みは確かに存在する。此処を去る日が訪れるとして、その記憶を生涯忘れることは無いだろう。
「外での読書は捗らなかったろう?」
 言って、サンクレッドは自分の眉間を撫でる。身長差のせいで、ウリエンジェに届かないからだ。
「皺が寄っていました?」
 しまった。と思う。眩しさから顰めつらしい表情になるまでは、注意を払っていなかった。
「お前は目が弱いからな」
 サンクレッドは眉を下げる。
 今度はウリエンジェが苦笑する番だった。思い返せば、サンクレッドは自分に影が差すよう振る舞っていた気がする。こと、第一世界においては。
「貴方には全てお見通しですね」
 ウリエンジェは白い手を取ると褐色の指を絡めた。